第26回YTローフォース・ローフリクションセミナーに参加しました。
- 2024年11月7日
- YT臨床矯正セミナー,学会・セミナー等
いつもお世話になっております。高崎ハルナモ歯科の深澤です。10月13日(日)、14日(月・祝)は医院をお休みさせて頂き、月イチで矯正の勉強会でお世話になっている武内豊先生が開催された第26回YTローフォース・ローフリクションセミナーに参加しました。
ワイヤー矯正のときに歯につけるポッチのことをブラケットといい、ブラケットにつける針金のことをワイヤーといいます。デーモンシステムとは、Dr.Dwight Damonが開発したブラケットとワイヤーを用いる矯正の総称のことです。1996年にデーモンシステムが発表されました。現在は第9世代のUltima Systemが2021年に米国で製品化され、2022年10月に日本で販売開始されました。今回のセミナーでは、従来のデーモンシステムの確認と、最新のデーモンシステムであるUltima Systemの使用方法を講義して頂きました。
デーモンシステムの特徴を表す4つのキーワードがあります。①Low friction and low force、②Muscle balance、③Keep hands off the system and let everything work freely、④Face driven treatment planningの4つです。①Low friction and low forceとは痛みの少ない効率的な矯正を行うために弱い持続的な力を与えること、②Muscle balanceとは口腔周囲筋と歯槽骨との協調を目指すこと、③Keep hands off the system and let everything work freelyとはCuNiTiワイヤーなどの特徴を活かしたシステムの簡略化、④Face driven treatment planningは顔貌を主体とした矯正のことをいいます。
バクシネーターメカニズムという言葉があります。簡単にいうと、口まわりの口輪筋や頬筋などの力は、歯列を内に入れる役割をしているという考え方です。逆に舌は、歯列を外に出そうとします。バクシネーターメカニズムの中に入れようとする力と、舌の外に出そうとする力の釣り合いが取れていると、歯列は現在の位置を維持します。
デーモンシステムの4つの特徴を簡単に説明するとCuNiTiワイヤーなどの弾性力の強いワイヤーを使用し、痛みがほとんどでないような弱い力を継続的に歯に与えます。そうすると、生体に無理のない範囲で歯牙が移動し、歯を支える歯槽骨が新しい歯牙の位置に添加されていきます。急激な変化ではなく無理のない範囲で生じた変化なので、バクシネーターメカニズムと舌の力の関係も、新しい環境に調和した形で均衡が取るようになります。新しい歯列にあった均衡が維持できると、後戻りなどが少なくなります。生体に調和した矯正なので、笑顔も歯と口周りの調和が取れた状態になるようになります。
第1世代のデーモンシステムから現在まで、様々な改良が加えられてきました。第9世代のUltima Systemではデーモンシステムのというより、矯正そのもののゲームチェンジャーなり得る非常に面白い改良が加えられました。
ワイヤー矯正の分類はいくつかありますが、その1つとしてスタンダードエッジワイズ法とストレートエッジワイズ法の2つに分類できます。スタンダードエッジワイズ法とは、ワイヤーを細かく曲げて歯を動かす方法です。矯正の主体はワイヤーで、ブラケットは従と言った位置付けになります。一方ストレートエッジワイズ法とはブラケットにあらかじめ理想的な歯の配列になるようにプログラムしておき、ブラケットが歯を動かす方法です。なので、こちらはブラケットが主でワイヤーが従になります。
ちなみにエッジワイズ法とは1928年にAngle.E.Hが発表した方法で、長方形ワイヤーを使います。100年近くワイヤー矯正では、ほぼこの長方形ワイヤーを使用しており、これはストレートエッジワイズ法でもスタンダードエッジワイズ法でも変わりません。
現在の矯正の趨勢はストレートエッジワイズ法です。ストレートエッジワイズ法は、理想的な位置に歯が並ぶようにブラケットが作られています。この理想とは平均的な歯の大きさ、顎の大きさ、口周りの筋肉の強さでの、理想的な配列のことです。個々人の差はあるますが、よほど平均値からずれなければ、この配列で問題はありません。しかし、ワイヤーとブラケットの間には遊びがあり、力を完全に意図したとおりに伝えることができないため、理想的な配列にならないことがあります。そのため微調整の段階では、個々の歯の状況に合わせてワイヤーを曲げて歯を移動させる必要があります。
デーモンシステムはストレートエッジワイズ法に分類されます。これも従来のストレートエッジワイズ法と変わりがなく、微調整の段階では角ワイヤーを使用してワイヤーベンディング(ワイヤーを曲げることです)が必要になります。
2012年、Dr.Dwight Damon は、OSIMという矯正力を測る機材を開発したカナダのDr.Badawiを訪れました。その際に、ワイヤーベンドを行った矯正力の強さを計測しました。その時の値が、従来Dr.Damonが唱えてきたlow forceから大きく逸脱したものだったそうです。それから6年間、新システムの研究開発を行い2018年に新しいコンセプトを発表し、2021年に米国で製品化したのがUltima Systemです。
Ultima Systemは、ワイヤーベンドによる過度の矯正力がかからないように、ワイヤーベンドを行わないで矯正が完了するように設計されたシステムです。つまり、ある意味では、本当の意味でのストレートエッジワイズ法であるといえます。ある意味といった含みを持たせた言い方なのは、Ultima Systemでは従来のエッジワイズ法の形態とは一線を画すからです。長方形ワイヤーの代わりに、デイモンアルティマワイヤーという、俵型のワイヤーを使用します。またブラケットのワイヤーが通るスペースをスロットといい、エッジワイズ法では長方形をしていますが、Ultima Systemで平行四辺形をしています。
Angleが1928年にエッジワイズ法を提案して以来、約100年の間にブラケットとワイヤーの素材に変化はありましたが、新しい形態が提唱されることはありませんでした。開発者やメーカーは新製品が出ると大袈裟に宣伝するのは、医療の世界でも変わりません。市場に出てまだ3年ほどなので、臨床的なコンセンサスは定まっていませんが、開発者がいうとおりなら、ブラケットのスロットやワイヤーが今後大きく変わる可能性があります。そういった意味で、ゲームチェンジャーになり得る可能性を秘めています。
通常のストレートエッジワイズ法では、長方形のスロットに長方形のワイヤーを通すため遊びが生じる歯がでてしまうことがあります。そのためある歯では矯正力がかかりすぎたり、別の歯では矯正力がかからないという事態が生じます。そのため、最後にワイヤーベンドを行い歯に矯正力がかかるように調整していきます。一方Ultima Systemでは平行四辺形のスロットに、俵型のワイヤーを通すため必ず4点で接触するようにデザインされています。各歯に必要十分な矯正力が必ずかかるため、微調整のためのワイヤーベンドを行う必要はありません。
このワイヤーはCuNiTiという非常に弾性力の高い形状記憶合金からワイヤーが作られています。ブラケットのスロットを平行四辺形に、そしてワイヤーを俵形に改良することで治療期間中すべてのワイヤーをCuNiTiで行うことが可能になりました。CuNiTiだけで全てのステージで行うことができるのは、私の知る限りUltima Systemしかありません。CuNiTiは形状記憶合金の特性を活かした、弱い力を持続的に加えることが可能です。またワイヤーの力を過不足なくつたえられるブラケットシステムのお陰で、デーモンシステムの4つの特徴を理想的な形で体現している非常に素晴らしいシステムです。
歯科学は材料の発展で、臨床の考え方そのものを変えてしまうことがあります。そのため、治療を行う者の責任として常に勉強をしなければなりません。勉強の機会を作るために医院をお休みにせざるをえないことがあり、皆様に多大なるご迷惑をお掛けしてしまいますが何卒ご理解をいただければ幸いです。