JIADS エンドコース第2回目に行ってきました。
いつもお世話になっております。
箕郷町コープの敷地内で開業している高崎ハルナモ歯科院長の深澤です。
3月8日(土)、9日(日)は医院をお休みにさせて頂き、JIADS(The Japan Institute for Advanced Studies)のエンドコースの2回目に行ってきました。
JIADSとは、日本で5指に入るスタディーグループです。
エンドはエンドドンティクス(Endodontics)を略したいい方で、日本語だと歯内療法や根管治療といいます。
歯の中には、神経と血管の複合体である歯髄というものがあります。
歯髄を取ることを抜髄といいます。
その後、ガッターパーチャーという防腐剤を、神経の代わりに詰めます。
神経を取ってから数年後に、一定の確率で歯の根の先に、膿の袋ができることがあります。これを根尖性歯周炎といいます。
放っておくと、痛みが出たり、歯根周囲の骨を溶かしてしまいます。
エンドは、抜髄後の根尖性歯周炎を未然に防ぐことと、もし根尖性歯周炎になったら2度とならないようにすることを目標としている治療体系です。
セミナー会場は、医療法人貴和会銀座診療所のセミナー室で行われました。
貴和会銀座診療所はビルの上階にあり、大きな看板があるわけでありません。
場所は銀座シックスの目の前ですが、こんな場所に歯科医院があることを気付かない人が大半だと思います。
ですが、日本トップレベルの治療を提供する知る人ぞ知る歯科医院です。
世界的な有名人もここに治療のために通われています。
8日は、京都市でご開業されている吉川デンタルクリニック院長吉川宏一先生の、エンドペリオ病変を中心とした講義から始まりました。
吉川先生は、1992年からエンドコースの講師をされています。
ジアーズのセミナーが始まったのが1988年ですから、初期からジアーズに関わられている重鎮の先生です。
講義は音楽のようにテンポよく、臨床への情熱を掻き立てられる口調で進められていました。
エンドペリオ病変とは、エンドの問題とペリオの問題が複合的に絡み合った症例のことです。
ペリオとはペリオドンティクス(Periodontics)の略で、日本語になおすと歯周治療学(簡単にいうと歯周病の治療のことです)です。
普通は、エンドはエンド、ペリオはペリオと別々に治療を進めていきます。
ですが、稀にエンドとペリオの深刻な問題が同時におきます。
エンドペリオ病変では、エンドから治療を開始する理由を教えてもらいました。
エンドペリオ病変は、予後が非常に悪く、治療をしても抜歯になることが多いですが、吉川先生が治療された症例では、30年以上のロンジェビティ注1を達成されていました。
この技術体系を学ぶために、ここで勉強しているのだと再度確認しました。
その後、埼玉県川口市でデンタルクリニックKをご開業されている渥美克幸先生から、感染制御の講義がありました。
スポルティングの分類という考え方があります。
これは患者さんのどこに触れるかで、消毒や滅菌注2のレベルを3段階で分類したものです。
例えば、手術室で使用する手術器具と、病室で使用するリネン類では要求される水準が違います。
全ての器具で、一番要求レベルの高い滅菌を行えばよいのでは?と思われる人もいるとは思いますが、それは現実的ではありません。
滅菌は、機材を痛めて壊してしまうこともあります。
なにより、全ての器材に高水準のレベルを要求するとコストがとんでもなく高くなります。
滅菌を行えない器材などは、ディスポにせざるを得ないからです。
また消毒も、無駄に高水準のものを使えばいいわけではありません。
高効力の消毒薬は、人体や環境、また器材に有害なことが多いからです。
そのため、医療現場では、それぞれの使用目的に適した殺菌や滅菌を行う必要があります。
具体的に、どの器具にどの薬品を使うべきかなどの実践的な内容を、最新のエビデンスを踏まえて教えてもらいました。
また、歯科医院で使っている水質管理についても詳しく教えてもらいました。
日本の水道水は世界でも飲料水として使用できる珍しい水ではありますが、医療として使用するならもう少し厳しい基準で用いるべきではないかというお話がありました。
超一流は、ここまでこだわるのかと驚きました。
渥美先生の言われる基準を満たすためには、専用の設備も整えなければなりませんが、導入するメリットは計り知れないので、当院でも今後導入していきたいと思います。
昼食を挟んで、埼玉県の秩父市で秩父臨床デンタククリニックを開業されている栗原仁先生から、歯性上顎洞炎と根管治療中の疼痛予防のお話を聞きました。
上顎洞炎とは簡単にいうと蓄膿症のことです。
通常は鼻が原因で上顎洞になることが多いのですが、稀に歯が原因で上顎洞炎になることがあります。
これを歯性上顎洞炎といいます。
歯性上顎洞炎の原因歯は抜歯せざるを得ないことがあります。
抜歯後に患者さんがインプラント治療を希望された場合、骨がなくなっていることが多く、この時にサイナスリフトという上顎洞に骨を作る手術をすることがあります。
抜歯後の処置をうまく行わないと、サイナスリフトができなくなることがあるため、その対策を、手術ビデオを見ながら解説してもらいました。
根管治療を行っていると痛みが取れなくて難儀することがあります。
そうならないようにするための治療の進め方があります。
この方法は以前栗原先生が行われてるファンダメンタルコースで教えていただいていて、当院でも開業以来取り入れています。
今回改めて講義を受けさせて頂くと、当時は気付かなかった点もあり、知識のアップデートができました。
次に大阪でご開業されている福地歯科医院院長の福地康生先生から、下顎の大臼歯の解剖と実習のデモがありました。
下顎の大臼歯は歯内療法を行う機会も多い歯ですが、改めて臨床解剖として学ぶと、手技で注意する点などが浮き彫りになり非常に勉強になりました。
実習では、透明模型というスケルトンになっている歯の模型を使って行い、その後レントゲンで充填の状態をチェックしてもらいます。
他の先生の手技もレントゲンやコメントを通して学べるので、一気に実力が付く感じがします。
自分が疑問に感じことを他の先生も同じく疑問に感じることもありますが、自分が気にしなかった点や気付かなかった点を他の先生は疑問点に思っていたりしていたため、考え方への幅が広がりました。
2日目の9日は朝8時30分からスタートしました。
前日、講師の先生方や受講生の先生方とお酒を楽しませてもらったので、軽い二日酔いでしたが、セミナーが始まるとグイグイ引き込まれて、気付いたら二日酔いも治ってました(笑)。
この日の午前中は、渥美先生から、MTA系材料の取り扱い、XP-ENDというNi-Tiファイルの取扱い、上顎大臼歯の解剖、実習のデモを受けました。
MTA系材料とは、世界中で現在最も信頼のある根管充填材料で、長期予後の報告も出ている材料です。
MTA系材料は、日本の保険診療では認められていませんが、自費の根管治療では使用されています。
材料としては根管の細管へも材料が入り込み、長期の抗菌作用を持続します。
この抗菌作用のお陰で、根尖性歯周組織炎への予防や治療には、世界では欠かせない材料としての信頼を勝ち取っています。
悲しいことに保険診療では、世界標準の治療を提供することはできません。
日本の国民皆保険はとても素晴らしい制度ですが、時間や材料の制約を受けてしまいます。
その現実をお話し、患者さんへの選択する機会を提供できればとは思います。
話は戻りまして、MTA系材料は使用が難しく、材料の特性を発揮するためには練習が必要です。
しっかりと技術を身に着け、当院でも提供できようにしていきたいと思います。
XP-ENDは白水というメーカーから出ているファイルです。
歯内療法では、根管をキレイにするためにファイルという器具を使用します。
ファイルは通常針のようにまっすぐなのですが、このXP-ENDはウネウネとした形状をしており、根管内にいれると形が変わるちょっと変わったファイルです。
この特殊な形状が、根管洗浄注2やGP除去注3に効果を発揮します。
一つの器材に習熟することは大切ですが、同時に他の器材へのアンテナを高くする必要性を改めて痛感しました。
上顎大臼歯の臨床解剖の話では、いつも出てくる第4根管がやはり話題の中心となりました。
上顎大臼歯では、通常根管の数は3つなのですが、4番目の根管があることもあります。
これを第4根管といいます。
第4根管は非常に未発達で、肉眼では見えないことが多いです。
なので、拡大鏡やマイクロを使用して探していく必要があります。
見つかっても、未発達すぎてしっかりとした拡大ができないことや、他の根管とつながっていることもあります。
歯内療法では、この第4根管をどう治療していくかが問題になります。
臨床解剖学的な知見から、治療方法を教えて頂き、エビデンスに基づいた対処法がよくわかりました。
実習では、この第4根管まである模型を使い、根管治療の実習を行いました。
この模型の根管が非常に入り組んでおり、穿通といって根管の先端までファイルを通すことができなく、講師の先生にマンツーマンで教えて頂きました。
その時に、同じ模型を10個買って練習すれば必ずできるようになるとアドバンスを頂きました。
すぐに業者さんに連絡をいれ模型を10個購入し、その後模型がなくなるまで朝練習を行いました。
10個程行うと、確かに穿通力がアップしました。
余談ですが、更に10個ほど追加購入をして今も定期的に練習を行っています。
昼食後、福地先生から狭窄根管・湾曲根管・扁平根管、側枝・分岐への対応、下顎第二大臼歯の解剖、実習のデモがありました。
狭窄根管とは根管が通常よりもかなり細くなっている根管で、湾曲根管とは根管が極端なカーブを描く根管で、扁平根管は押しつぶされたような根管です。
根管は通常一つの管のようなものなのですが、側枝とは先端で細い枝のような根管があることで、分岐とはそれなりの太さの根管が2つ以上に分かれることです。
側枝と分岐の違いは、ファイルが入るか入らないかの違いです。
側枝は絶対に入りませんが、分岐は運がよければ入る太さの根管です。
狭窄根管・湾曲根管・扁平根管は通常のファイルが入るのでなんとか根管拡大ができるのですが、側枝や分岐になってくるとファイルでの拡大はほぼ不可能です。
そのため側枝や分岐は根管洗浄が重要になってきます。
根管洗浄も一つの方法だけではなく、複数の方法を組み合わせ行う重要性を強調されていました。
下顎第二大臼歯は、通常根管が3つあるのですが、3つの根管がすべて扁平根管で1つに癒合していることがあり、これを樋状根といいます。
そのため歯内療法に特化した歯の解剖では、第二大臼歯は別格扱いになることが多いです。
樋状根の解剖学的特性から、どのように根管拡大をすべきかとの説明を受け、実習のデモに入りました。
実習では樋状根へのアプローチだったので、わかりやすい講義の後にデモを見ると手技が自然と整理されて頭に入ってきます。
ジアーズのエンドコースは全3回あり、東京で2回、大阪で1回開催されます。
次回は大阪で開催されるため、前日入りして万全の体制でセミナーに挑みたいと思います。
また宿題も出されていて非常に大変ですが、受けるたびに実力がつくのがわかるので頑張って準備をして次回に挑みたいと思います。
高崎ハルナモ歯科では、一般歯科のみではなく、インプラント、矯正、ダイレクトボンディング、審美修復などの高度な歯科治療を提供できるように、常に研鑽を行っております。なにか、お困り事がございましたら、気楽にご連絡ください。
注1:ロンジェビティ(longevity)とは、この場合30年以上の長期予後のことです。
注2:根管洗浄とは、根管の汚れを取り除くことで機械的根管洗浄と化学的根管洗浄の2つがあります。
注3:GP除去とは、神経をとった歯にはガッターパーチャー(GP)という防腐剤をいれます。これを取り除くことをGP除去といいます。